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ボルツマン分布ってなんだろう

きみたち、そろそろ就職じゃろ?イシガス商事に入ってみないか?お給料は完全歩合制。きみたちはセールスマンだとして、商談を勝ち取ればお給料が増えるとする。でも、一個も商談を勝ち取らないと、お給料はゼロじゃ。
いやー、こんな会社(笑)。

商談を勝ち取る確率が1/2だったら、非常に話は簡単になるよね。二項分布ってやつじゃないの?
そうね。お給料の平均をもらう人が一番多い、っていう分布(↓)になりそうだわ。

しかし、ここの社長としては困ったことが起きた。月々によって、従業員に配る全人件費がちがうんじゃ。社員たちがどのくらい商談を勝ち取るかどうかは、為替だの原油価格だの、不確定な要素にも左右されるので、社員に配る給料が予期せず上下してしまう。ところが社長としては、予測可能なほうがいい。そんなわけで、全従業員に配る給料の総額をあらかじめ決めてしまうことにした。固定費は変動しないほうが経営プランが立てやすい、ってやつじゃ。


ひょっとして、社員どうしで給料の奪い合いの世界になるんじゃないの?

そう。商談を取って来た社員が、給料袋をどの社員からぶんどるかは、ランダムに決めるものとする。さぁ、下の図をみてみよう。例として、総額3000万円の3つの給料袋を4人で取り合う状態だ。


これでも平均すれば750万円の給料なんじゃから、ずいぶんと良心的な会社じゃないかね?
全然(キッパリ)。

…ははは。
社員が増えていくにつれて、社長はきがついた。社員が十分にたくさんいて、また、商談の勝ち取りによる給料の奪い合いが十分な回数おこなわれていれば、社員の給料の分布はたった1つの分布状態に収斂(しゅうれん)していく、とね。

それが、ボルツマン分布ってやつね。下の図でしめすような分布なんでしょ?


そう。底辺の人が非常に多く、高給になっていくに従って指数関数的に人の数が減っていく。

さすがにボクもここまでなら余裕で知ってるよ。今回の授業は、このボルツマン分布を導出する、ってやつだね!
正解じゃ。文系ならともかく、理系のキミなら、どうやって導出するかを一回でいいからきっちりおさえておきたいところじゃ。そうすることによって、ボルツマン分布と関連性のあるアレニウスの法則や、フェルミ-ディラック分布がスッと頭に入ってくる素地ができあがる。


場合の数

じゃ、さっそく導出にとりかかってみましょう。でも博士、導出ってなると、いきなりスターリングの式というのが天下りのように突然でてきたり、いきなりlogをとっちゃったりする導出になって、最後はラグランジュの未定乗数法がポーンと出てくるのよ。どうもわたし自身の頭で、スッキリした理解になっていないような気がするわ。
ははは。天下りのように感じるってことは、そういう公式が出てくる必然性がまだ感じられていない、っていうことだね。逆に、そこがわかってしまえば、天下りとか思わずにすんなりとスムーズに受け入れることができるはずじゃ。そのうえで、自分で公式も簡単に導くことができれば怖いものなしじゃね。
そういった難しいチェックポイントに関しては、本ムービーでじっくりとりあげるから問題ない。さぁ、今は「場合の数」についてすこしおさらいしていこうか。
「場合の数」ね。いきなり大きい N について考えると大変だから、サラリーマンが全部で10人、給料袋は8つ(全部で8000万円)のときを考えようよ。その10人のサラリーマンに給料を分配しようとすると、どういった配り方があるか、ってことなんだね。(↓)

たとえば1人が3000万円、1人が2000万円、3人が1000万円ってケースを考えると、そのときの場合の数はどうなるのかしら。

まず、3000万円の大当たりの人を決定するのは10通り。2000万円の人を決定するのには、3000万円獲得できなかった残りの9人のうちから1人だから、さっきの10通りそれぞれの中で9通りある!そして、1000万円の人を決定するのに、残りの8人のうちから3人選ぶんだから、8C3だよね。
残った5人は何ももらえないんだけど、5人から5人を選ぶ組み合わせ(つまり1通り)、というふうに表現すると、下のようになるわね。こういった場合の数Wを計算すると、なんと5040にもなるわよ!ひゃあ。


でも、この分布がいちばん起こりえる分布じゃないのよね。たとえば、3000万円が1人、2000万円が2人、1000万円が3人というような分布にするんだったら(↓)、その場合の数は12600通りになって、さっきよりもずっと多い。だから、こっちのほうが「より自然な」分布になるわ。



じゃあ、どの分布が一番「より自然か」を考えていく前に、式を見てみましょう。分子は10!になって非常に分かりやすいわね。分母もそれほど難しくはないわよ。3000万円から0円まで、金持ちレベルが4つなんだから、分母は4つの数の階乗がそれぞれ掛け合わされているわね。
てことは、一般化してN人に分配するときは、分子はN!になるよね。分母はどうなるかというと、、、

上の式のようになるよ。ここで、制約条件が発生しているから記述しておく。全体の人数は限られていて、かつ、配られる金額も限られている。
ボルツマンによると、制約条件を満たしながら、この場合の数をしらべていくと、どこかで最大の場合の数になるケースがあって、そこが最終到達点だってことじゃ。
でも、ほんとに不思議よね。かならず「場合の数が最大になる」ような状態に落ち着いていく、だなんて。人数が少数のケースだったら、確率的に考えて、いびつな分配だってありえるわけじゃない?
マクロなものの見方をすると、つまり、サンプル数が十分おおいと、偶然なんてものは生じま得ません、ってことなんだね。
そう。上で記述した場合の数Wを最大化するにはどういう組み合わせだったらいいのか、それをこれから考えていこう。
この連立方程式、よくみると、変数が非常に多いんじゃない?n1, n2, …と、全部変数よ。NとかEは定数だからいいんだけど、そのほかは変数だらけ。何次方程式になるのかもわからない。こんなのほんとうに解けるのかしら。
ははは、心配ない。じゃ、いっしょにムービーをみながら、ボルツマンの公式の旅に出発じゃ。



これで解決!ボルツマン分布解説ムービー

(Windowsのみ) 所要時間:90分
熱力学を考えるにあたって、また化学の実験や量子力学の世界に関わるにあたって、ボルツマン分布は粒子のもつエネルギーについての根幹をなす分布です。この分布の導出をどのような数学的テクニックを用いておこなうか、という点に重点をおきますので、ボルツマン分布にあたっての概念の解説というよりも、むしろ数式の隅々にまで注意しながら進めていく授業です。ラグランジュの未定乗数法が登場してきます。これについての解説は行いますが、姉妹品の「ラグランジュの未定乗数法」を受講していることが必須です。



2012年3月公開。

第一章までの無料のムービーはこちらへどうぞ。(音声があります。) 全てをご覧頂くには、ご購入いただく必要がありますが、第一章は無料で楽しめます。


クリックして早速見てみよう!
必須知識
偏微分の基礎を学習した程度の学力が必要です。また、ラグランジュの未定乗数法についての基礎知識が必要です。

スクリーンショット 



取り上げる内容

・第一章 まずは習うより慣れろ、です。ボルツマン分布の例として身近なものをあげ、練習問題にしてみました。一緒に解きながら、ボルツマン分布の式を使えるようにしましょう。特に気をつけるのは単位系です。それについてしっかり押さえるのが目的です。
・第二章 ボルツマン分布の導出の前に、「場合の数」に焦点を当てて、ボルツマン分布に関する基礎を学びます。なぜ場合の数と関連付けられるのか、をフラスコに入った分子のケースを取り上げてみていきましょう。
・第三章 ボルツマン分布導出の準備として、スターリングの公式があります。これが、天下りの式のように思えてならない人のために、丁寧な解説で進めていきます。実は高校の知識で解けるんですよ!後半はラグランジュの未定乗数法で解いていきます。ラグランジュの未定乗数法の巻をあらかじめ受講していれば、すんなりと頭に入っていくように作ってありますので、あわせて受講していない方にとっては不十分な場合がありますので、ご承知おきください。
・第四章 練習問題を2問解いてみます。どちらもボルツマン分布にかかわる重要な問題です。この章の後半で学ぶ、分配関数についてもおさらいをします。
・第五章 縮重、もしくは多重度と呼ばれる概念について学びます。これで一般的な形でのボルツマン分布がひととおり学習できたことになります。